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コラム
2018 Vol. 3 PDF 版


かつて、日本の造船は花形輸出産業でした。特に戦後は政府のバックアップもあり、さまざまな造船所が林立し、それなりに需要を満たし、そして地域産業としても貢献してきました。一時は建造量世界一を誇った時もあり、欧米の造船所を凌駕してきた歴史があります。昨今、韓国、中国の台頭で、正解で建造量では第3位となりましたが、重厚長大で労働集約性の高い造船業は先進国から始まり、発展途上国に移行してきた当然の歴史があります。広い土地、設備、高度な技術、そして、熟練を要する故、大企業が携わるのは当然ながら、専業も長きに亘り、存続し発展してきました。今後とも世界で必要な造船量(商船)は日本、韓国、中国で賄えると思われます。

日本では、造船業の立地が北から南下していった歴史もあります。この経験工学は人手を喰います。矢張り人件費は南に下れば安かったということなのでしょうか?九州地区に集中傾向を観ますが、其のうち九州から海に落ちていく運命なのかもしれません。とすれば落ちる先が韓国であり中国なのでしょう。

商船建造の歴史に関しては、欧米に較べ、日本の造船産業は長命です。今後も、専業造船所の腰が強ければ、大丈夫でしょう。日本には、造船、船舶運航技術者を輩出する専門学校、一般学校にも専門学部があり、舶用機械産業も充実しています。建造の合理化、技術開発、そして経験工学に培われたのか、「匠の技」もあります。ギリシャ船主の中古買船引き合いに「JAPANESE/KOREAN BUIT ONLY」というバイヤーがおります。

舶用機械産業も、かつては売り先は国内造船所のみでしたが、海外メーカーと技術提携等して品質をあげ、今や海外造船所に売れる様になりました。造船所とメーカーは共存してきた歴史もあるのです。ともすれば日本の造船所はメーカーに対して上から目線で対応する傾向を感じますが、共存のパートナーとして対応するべきです。特に欧州では造船所がメーカーの技術者をスカウトするケースを見かけますが、その逆はありません。又、メーカーは出生値引きを慮って見積もりの水増し等は致しません。従って、造船所の購買部の担当は数人だけです。

世の中は重厚長大から軽薄短小の時代へ移行している感があります。当然これには逆らえません。人件費の安い地域や国へ移行するのは当然なのです。歴史が“必然”を求める中では日本の大手造船所は今や商船建造から撤退すべきなのでしょう。昨今、提携、合併、再編の傾向を観るのも当然です。商船建造は専業造船所に任せるべきなのです。造工、中造工などの色分けは止めるべきです。専業造船所は、培った経験と実績で品質、コスト面でまだ競争力があります。所謂「ジャパン プレミアム」もあるようです。

海運業の側から見ると、昨今の地政学的な変動、ややもすると貿易戦争、金融環境等は海運マーケットに大いに影響を与えますが、一方で過剰船腹も大いに影響します。船舶のサプライとデマンドが拮抗しているのが安心、安全です。軽薄短小の中で荷物が飛行機などの別の手段で運ばれる傾向を観ます。しかし鉄鉱石が飛行機で運ばれることはあり得ません。原料を安く、製品を安く運ぶことにその使命があり、七つの海がある限り、造船と海運が重要な基幹産業であり続けることに狂いはありません。

三井E&Sが商船建造から撤退するそうです。この記事を見て、ふと雑感を述べて今回のレポートとします。

野田 著


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